子の連れ去りに対する対応方法【ハーグ条約と外務省】

ハーグ条約(国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約)とは?

1970年には年間5,000件程度だった日本人の国際結婚は、2005年には年間4万件を超えました。また、国際結婚の増加に伴い、国際離婚も増加した結果、結婚生活が破綻した際に配偶者の同意を得ることなく、子を自分の国へ連れ出してしまう「子の連れ去り」が問題視されるようになりました。

このような問題について検討することを決定され、1980年10月25日に「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約(ハーグ条約)」を作成されました。2022年11月現在、世界103か国がこのハーグ条約を締結しています。

締結国一覧リスト

ハーグ条約の内容

国を超えた子の連れ去りは、子にとって、生活基盤が変わるだけでなく、親や親族・友人との交流が断絶され、また、異なる言語文化環境へも適応しなくてはならない等悪影響を与えます。そのため、ハーグ条約は、原則として元の居住国に子を迅速に返還するための国際協力の仕組みや国境を越えた親子の面会交流の実現のための協力について定めています。具体的には、①子を元の居住国へ返還すること②親子の面会交流の機会を確保することが規定されています

①について、ハーグ条約は、監護権の侵害を伴う国境を越えた子の連れ去り等は子の利益に反すること、どちらの親が子の監護をすべきかの判断は子の元の居住国で行われるべきであること等から、原則として子を元の居住国へ返還することを義務付けています。これは一旦生じた不法な状態を解消した状態で、子の生活環境の関連情報や両親双方の主張を十分に考慮し、子の監護についての判断を行うのが望ましいからです。

②については、国境を隔てて所在する親と子が面会できない状況を改善し、親子の面会交流の機会を確保することは、不法な連れ去りや留置の防止や子の利益につながると考えられることから、ハーグ条約は、親子が面会交流できる機会を得られるよう締約国が支援をすることを定めています。ただ、近年では家庭裁判所や専門家の間で面会交流の有用性に疑義が生じているため、今後のこの流れは変わっていくかもしれません。

上記の申請状況については、外務省も非常に力を入れていることから、申請件数の約80%は援助決定がされているため、非常に効果的な制度だと言えます。

申請要件と申請場所

申請できる種類としては、「返還援助申請」と「面会交流援助申請」があります。まず大前提として、①子がハーグ条約締結国から日本へ連れされた、又は、ハーグ条約締約国に居住していた子が日本に留置された方で、②子の元々居住していた国への日本からの返還を希望する人が、外国返還援助の申請が可能です。ただし、下記の却下事由に当てはまる場合には申請が却下される(第7条第1項)

  • 申請に係る子が16歳に達していること
  • 申請に係る子が日本国内に所在していないことが明らかであり、かつ、申請に係る子が所在している国が分からないこと
  • 申請に係る子がハーグ条約締結国以外の場所にいること
  • 申請に係る子の所在地及び申請者の住所または居所が同じ国であること
  • 申請に係る子の連れ去り又は留置の開始時にその子の常居所地が条約締結国でないこと
  • 申請人が監護の権利を有しておらず、子の留置が当該監護の権利を犯していないこと

上記の要件に該当しなければ、外務大臣宛に申請書と添付資料をつけて、申請を行います。そのため、行政書士も当該業務を行うことができます。

申請後

申請後、まず国や自治体の協力を得て、日本に居住している子及び同居者の場所を特定します。その後、援助・却下・日本以外の場所にいる場合にはその国の中央当局に申請書を送付します。

援助決定後には、当事者官の合意による問題解決を促すために、当事者が協議の斡旋を支持する場合には、連絡の仲介・ADR機関や弁護士の紹介をします。また、子を日本へ連れ去られたまたは日本に留置された方は、外務省への援助申請とは別に、東京家庭裁判所又は大阪家庭裁判所に対し、子を返還するための申立てを行うことができます。裁判所によるこの返還決定が確定した場合には、外務省は子を安全に元々の居住していた国に返還する支援を行います。

なお、民事保全手続として、裁判所に出国禁止命令の申立てや子の旅券提出命令の申立てを行うこともできます。

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