技能実習生に対して不法就労をさせた場合の会社の責任【行政書士が解説】
技能実習生(特定技能生も)は、指定された会社及び指定された業務にのみ仕事を従事することができます。そのため、指定された会社や業務以外には従事することはできません。
しかし、上記のようなことを知りながら、他の業務をさせる会社は現在も多く、大きな問題になっております。技能実習生は日本語能力が乏しく、ほとんどが会社や監理組合の言いなりで働いているため、社長が他の業務をするように命令すれば、その業務をせざるを得ないです。
今回は、会社が技能実習生を他の業務に従事させた場合の事例(令和3年3月26日広島高裁)を紹介させていただきます。

事例の概要
本事例の技能実習生は、食品製造業(パン製造作業)に従事するものでした。平日を中心に食品製造業に従事していたものの、会社は、工場が稼働していない日に、同じ会社が経営するファミレス等において、外食業に従事させていました。なお、会社の社長は、監理団体に対して、食品製造以外に外食業務も従事できるかを確認し、監理団体から社長の指示が通る範囲内でやるのであれば可能と解答されたため、上記のような資格外活動を命じていました。
技能実習生は、資格外活動により逮捕・勾留されたものの、不起訴処分(起訴猶予)となりました。しかし、逮捕・勾留により、技能実習を継続できなくなったので、これに基づき、会社と監理団体に対して、不法行為・債務不履行に基づく損害賠償等を請求しました。
本判決の結果としては、裁判所は、逮捕拘留中から転籍後の就労開始(帰国した者には3カ月)までの間を稼働機会損失として、賃金相当額の請求を認めました。
①判例における会社の責任
まず、会社は、技能実習生との間で、食品製造業にのみ従事させることを内容とする雇用契約を締結しているので、この業務以外の業務に従事するよう命ずることは、雇用契約の内容に反するものである。そして、技能実習法や技能実習制度のの趣旨に鑑みれば、技能実習生は、会社において就労して技能等の修得又は習熟を図ることが目的であることから、これをみだりに妨げられない権利を有すると言える。そうすると、会社等は、技能実習生に対し、資格外活動(他の業務に従事させること)を行わせることを内容とする業務命令を発してはならない法的義務を負う。
もっとも、会社としては、監理組合の助言を受けて資格外活動をさせたので、これに責任はないと反論することが考えられる。しかし、技能実習生を指定した場所・業務内容以外に従事させることは、入管法に抵触することが明らかであり、当該会社でもこれを十分認識し得たものである。また、資格外活動は本人たちが自らの意思でしていたと反論することも考えられるが、 本件の技能実習生は、入国後間もない外国人のため、日本の入国管理制度を理解していると言い難く、会社や社長の命令・判断を信頼することもやむを得なかったと言える。そのため、会社の命令でしたのは勿論、たとえ、自らの意思で資格外活動を行ったとしても、会社の行為責任は免れない。
②判例における監理組合の責任
監理団体は、定期監査などによる責任があり、会社等に、技能実習生に資格外活動をさせるのを防止又は制止すべき注意義務を負っている。これを怠り、技能実習生が資格外活動を理由に逮捕されるまで、制止しなかったのであるから、技能実習生に対して不法行為責任を負う。
まとめ
まとめになりますが、技能実習生に対する会社や監理組合の責任は以下のようなものになります。
- 会社は資格外活動をさせてはいけない。たとえ、本人が自らの意思で資格外活動を行う場合や、監理組合から相当な範囲内で資格外活動ができると助言されても結論は変わらない。
- 監理組合は、資格外活動を防止・制止すべき注意義務がある
- 上記に責任に違反し、技能生に損害を与えたい場合には、共同不法行為責任を問われる可能性がある
なお、上記のようなケースの場合、不法就労助長罪の要件にも該当しそうな気がします。詳細はこちらから。