特定技能生【宿泊分野】を受け入れる場合の要件とは?専門の国家資格者が解説
ホテルや旅館などで就労できるビザは何だと思いますか?業界の人であれば、「技術・人文知識・国際業務ビザ」と思うかもしれませんが、近年はホテルや旅館で「技術・人文知識・国際業務ビザ」の外国人を雇用することはリスクが大きくなっております。
当事務所でも、ホテル関係の会社様から「技術・人文知識・国際業務ビザ」の申請が不許可になってしまったケースの相談や入管の調査が入ったと聞くことが多くなっております。
もちろん、適切な業務であれば「技術・人文知識・国際業務ビザ」で雇用することは可能ですが、実態としては、「技術・人文知識・国際業務ビザ」よりも特定技能(宿泊分野)の方が適切ですし、入管も今後は、ホテル業務などは特定技能(宿泊分野)にしていこうという考えは少なくともあるかと思います。
今回は、特定技能【宿泊分野】について解説します。

1.宿泊分野での対象業務:主な業務と関連業務(客室清掃・ベッドメイキングの位置づけ含む)
特定技能「宿泊」の在留資格を持つ外国人が従事できる業務は、明確に定められています。
主たる業務 (Main Tasks) 中心となるのは、以下の4つの業務カテゴリーです。
- フロント業務: チェックイン・チェックアウト対応、予約管理、宿泊客への周辺観光案内、ホテル発着ツアーの手配など。
- 企画・広報業務: 宿泊プランやキャンペーンの企画立案、館内案内チラシやパンフレットの作成、ウェブサイトやSNS等を通じた情報発信など。
- 接客業務: ベル業務、客室への案内、施設案内、宿泊客からの問い合わせ対応、クレーム対応など。
- レストランサービス業務: レストランでの案内、注文受け、配膳・下膳、簡単な調理補助(盛り付け等)など。
※法務省より
関連業務 (Related Tasks) 上記の主たる業務に付随して、必要に応じて行うことが認められる業務です。例えば、ホテル・旅館施設内の売店での販売業務や、施設内の備品の点検・交換業務などが挙げられます 。
客室清掃・ベッドメイキングの位置づけ (Positioning of Cleaning/Bed-making) 多くの宿泊事業者が関心を持つ客室清掃やベッドメイキング業務については、特定技能「宿泊」においては「関連業務」として扱われます 。これは、フロント業務や接客業務といった「主たる業務」に従事しながら、それに付随する形でこれらの清掃業務を行うことは可能であることを意味します。しかし、客室清掃やベッドメイキングのみを専門に行わせる(専従させる)ことは認められていません 。もっとも、ホテル・旅館の会社は、外国人材に主に清掃業務を担当させたい場合でも、特定技能の「ビルクリーニング」分野での受け入れすることはできません。
なお、技能実習制度の「宿泊」職種では、「接客・衛生管理作業」が必須業務や関連業務とされ、その中に客室の清掃・整備作業が含まれています 。特定技能とは業務範囲の定義が異なる点に注意が必要です。
禁止業務 (Prohibited Tasks) 特定技能「宿泊」では、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(風営法)第2条第3項に規定される「接待」に従事させることは固く禁じられています 。これは、例えばホテル内のバーやスナック等で、客の隣に座って会話をしたり、お酌をしたりするような、いわゆる「おもてなし」を超える歓楽的なサービス提供を指します。また、特定技能「外食」分野で認められているような本格的な「調理」業務に専従させることもできません 。
外国人材の要件:技能・日本語レベル、年齢等
特定技能「宿泊」の在留資格を取得するためには、外国人本人も以下の要件を満たす必要があります。
- 年齢 (Age): 18歳以上であること 。
- 技能水準 (Skill Level):「宿泊分野特定技能1号評価試験」に合格する必要があります 。この試験は、宿泊業務(フロント、企画・広報、接客、レストランサービス)に関する基礎的な知識や対応能力、安全衛生に関する知識を問う学科試験と、実務的な対応能力を評価する実技試験で構成されます 。 宿泊分野に関する技能実習2号を「良好に」修了した外国人は、特定技能1号の技能試験及び日本語試験が免除されます 。ただし、特定技能2号の試験は免除されません 。
- 日本語能力 (Japanese Language Proficiency):日本での業務や日常生活に必要な日本語能力を証明するため、「日本語能力試験(JLPT)」でN4以上、または「国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)」でA2レベル以上に合格する必要があります 。JLPT N4は「基本的な日本語を理解することができる」レベル、JFT-Basic A2は「ごく基本的な個人的情報や家族情報、買い物、近所、仕事など、直接的関係がある領域に関する、よく使われる文や表現が理解できる」レベルとされています 。技能実習2号を良好に修了した場合は、この日本語試験も免除されます 。
- その他 (Others): 上記以外にも、健康状態が良好であること 、出国にあたり母国等の機関に保証金等を支払っていないこと、日本での活動に関して違約金を定める契約等を締結していないことなどが要件となります 。
受入れ企業の要件:事業許可、協議会加入、遵守事項
特定技能外国人を受け入れる企業(特定技能所属機関)側にも、様々な要件が課せられています。
- 事業許可等 (Business Permits, etc.):旅館業法に基づく「旅館・ホテル営業」の許可を受けていることが必須です。これが、後述する民泊施設での就労が原則として認められない最大の理由となります 。 風営法第2条第6項第4号に規定される施設(例:ラブホテル、ファッションホテル等)に該当しないこと 。 受け入れる特定技能外国人に対し、風営法上の「接待」を行わせないこと 。
- 雇用契約 (Employment Contract):外国人材とは直接雇用契約を結ぶことが原則です。人材派遣会社からの派遣といった形態は認められません 。雇用形態は基本的にフルタイム(正社員または契約社員)である必要があります 。報酬額は、同等の業務に従事する日本人従業員と同等以上でなければなりません 。これは、外国人を安価な労働力として扱うことを防ぐための重要な規定です。
- 支援体制 (Support System)
- 法令遵守等 (Compliance, etc.):
- 過去5年以内に出入国管理法や労働関連法規等に関して重大な法令違反がないこと 。
- 過去1年以内に、受入れ機関の責めに帰すべき事由により特定技能外国人や技能実習生の行方不明者を発生させていないこと 。
- 支援に要する費用を、直接的または間接的に外国人本人に負担させないこと 。
- 出入国在留管理庁への各種届出(四半期ごとの活動状況報告など)を遅滞なく行うこと 。
その他に細かい要件があります。詳しくはこちらからお問い合わせください。
民泊で働けるか?:旅館業法許可の壁
千葉県内で民泊施設を運営している事業者から、「特定技能『宿泊』の外国人材を雇用できないか?」という問い合わせが増えていますが、結論から述べると、原則として、特定技能「宿泊」の在留資格を持つ外国人は、千葉県内のいわゆる民泊施設で就労することはできません。
これは、特定技能「宿泊」の外国人を受け入れることができる企業(特定技能所属機関)は、旅館業法(昭和23年法律第138号)第2条第2項に規定する「旅館・ホテル営業」の許可を受けている必要があるからです 。 一般的に「民泊」と呼ばれる施設は、法的には主に以下のいずれかに分類されますが、いずれも特定技能「宿泊」の対象となる「旅館・ホテル営業」には該当しません。そのため、特定技能(宿泊)を民泊で雇用することができません。
- 住宅宿泊事業法(民泊新法)に基づく民泊: 2018年に施行された法律に基づき、都道府県知事等に届出を行うことで、住宅(戸建て、マンションの一室など)を活用して年間180日を上限に宿泊サービスを提供できる事業です 。これは「住宅宿泊事業」であり、旅館業法上の「旅館・ホテル営業」とは明確に区別されます 。千葉県でも、この法律に基づく届出制度が運用されています 。
- 特区民泊(国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業): 国家戦略特別区域として指定された地域において、条例で定められた要件を満たすことで、旅館業法の適用を受けずに宿泊事業を行うことができる制度です。千葉県内では千葉市が特区に指定されており、一定の要件(最低宿泊日数、施設基準、近隣住民への説明など)を満たせば、市長の認定を受けて特区民泊を運営できます 。しかし、これも旅館業法の適用が除外される特別な事業であり、「旅館・ホテル営業」の許可とは異なります 。
- 簡易宿所営業: 旅館業法には「旅館・ホテル営業」の他に「簡易宿所営業」や「下宿営業」といった区分があります。いわゆる民宿やゲストハウス、ユースホステルなどが「簡易宿所営業」の許可で運営されている場合があります 。これも「旅館・ホテル営業」とは異なるため、簡易宿所営業の許可のみで運営されている施設では、特定技能「宿泊」の外国人材を雇用することはできません 。
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